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伊予路

11月26日(水) 晴れ

 5時頃に起き出し、昨夜まがりなりにも洗濯したシャツ、パンツ、靴下を調べたらまだ半乾きだったので、ビニール袋に入れリュックに詰める。家ではすべてヨメハンに身の回りを頼っているのに旅先では結構マメに立ち回る自分が、おかしくて仕方がない。

 

例によって腹具合に対する不信感から朝食をとらないままホテルにリュックを預け、西条駅前07:43発の石鎚山ロープウェー口行きのバスで六十番横峰寺(ヨコミネジ)に向かう。山頂の寺までの専用バスが開通する以前は、焼山寺に勝るとも劣らない難所だったとのこと。昔なら貧脚の私などがたどりつける札所ではなかったのが、こうして参拝出来るのは有り難い限りである。30分ほどで目指す停留所に到着し(590円)、参拝客専用のバス乗り場に向かってノンビリ歩きだしたら、上の方から「急げ」との声がかかり、100mほどの距離をあわてて駆けつけ、1,700円也のバス代を召し上げられ、団体を乗せてきた大型バスの間に停まっていたマイクロバスに追い立てられるように乗り込んだ。中にはすでに15人ほどの先着さんが座っている。わずかに空いていた席にへたり込み、やっと落ち着いて考えるに、どうやらこのバスは団体を主眼に運行しているようだ。団体は添乗員がまとめて納経書に朱印をもらうので参拝ペースが速く、したがって個人で乗り合わせた場合、早く早くと急き立てられるに違いない。

  マイクロバスは細いアスファルトの曲がりくねった坂道を神技のようなスピードで駆け上がり、20分ほどで横峰寺の駐車場に到着した。私は言われたとおり急がねばならぬと、あたふたと本堂で読経して納経を済ませ御朱印をもらってから大師堂にお参りした。寺の風情は、何やら大きな普請をしている様子で、ざわついていた印象がある。もっとじっくり参拝したいところだったが、六十五番三角寺(サンカクジ)までは日没前に巡りたいとの欲が勝ち、急いでバスに戻ったが、肝心の団体はまだ戻っていない。運転手が「今日の団体は動きが遅い」とつぶやくので、下の戻りのバスとの接続は大丈夫か聞いたら、「ちょっと間に合いそうにないナ」との返事。散々せかされてこういうことかと思ったが、遍路たるものジタバタするのは禁物である。何事もなかったように高台に位置する駐車場から瀬戸内方面を見下ろしながらタバコを一服ふかした。はるか彼方には大型造船所のガントリークレーンが眺められたが、天気晴朗ながらやや靄がかかっていたのが惜しまれる。そうこうして横峰寺登山口まで戻ったら、やはり09:39発西条行きのバスはほんの少し前に出たばかりで、次の12:30発まで3時間近い待ち時間が生じた。行きがけに私を急きたてたマイクロバスの仕切り人のオジサンがしきりに気の毒がっていた。

  バスの待合所のはす向かいにある旅館で主人にウドン(\400)を注文したが、朝食抜きできたこともあり実にうまかった。主人はいろいろ話してくれたが、横峰は全山シャクナゲなので5月の連休時は花見客でごった返すという。しばらく休ませてもらったが、「ここで2時間以上待つのもつまらんから黒瀬ダム沿いに歩いて行けばエエ」と提案されたので、お言葉に従いバス通り歩きだした。あたりに人家はなく、通行量もまばらで天気も良く、ダム越しに石鎚山が頂上部分をのぞかせているのが見える。ただ、遠くに野犬の吠え声を聞いた時は、阿波路の記憶がよみがえり、思わず杖を握りしめた。30分ほど歩いて黒瀬ダムのゲートにたどりつき一服していると、30代と思われる外人の男性が自転車で走ってきた。声をかけしばらく話しこんだが、オーストラリア人で奥さんは日本人、西条市内の英語塾で講師をしているという。仕事は夕方からなので、ビールの飲みすぎで近頃せり出してきた腹を引っ込めるため、午前中は趣味のツーリングに精出しているらしい。気さくな青年で、こちらは足の痛みがぶり返してきたところだったが、「ビールはやめて焼酎にしなさい」などと軽口をたたき、大いに気が紛れた。

  腕時計の万歩計が10,000歩を過ぎたあたりに“兎ノ山(トノヤマ)”という停留所があり、そこの待合小屋にへたりこみ遍路紀行のメモをとりながら1時間ほどバスを待ち、西条駅に戻った。バス代は440円で、歩いて150円稼いだ計算だ。ホテルに預けてあった荷物を受け取り、伊予三島まで特急で移動(乗車券740円+特急券510円)。同駅から三角寺のふもとまで行くバスが1日3本しか走っておらず、往復タクシーを利用(5,000円)したので、横峰寺で相当にはしょった読経をじっくり行うことができた。この寺も長宗我部氏の焼き討ちにあったとのこと。タクシーの窓からは六十六番雲辺寺(ウンペンジ)の鎮座する、頂上付近に雪らしき白い部分の見える山がはるか東方に眺められる。標高は1,000m近いそうだが、明日はロープウェーを利用すると決めているので気が楽だ。タクシーの効果で足裏の痛みも大分和らいだ。

讃岐路(涅槃の道場)

伊予三島から次の観音寺までのJR運賃はいくらだったか、メモを取り忘れた。とりあえず300円ほどとしておこう。この移動時に、私の遍路行も四国最後の讃岐路に入った。午後3時過ぎに観音寺駅からほど近い遍路宿Iに着いたところ、八十年配のご主人が「ここに荷物を置いて六十八番神恵院(ジンネイン)と六十九番観音寺(カンノンジ)にお参りしてきなさい」とおっしゃるので、疲れてはいたがその通りにした。宿から徒歩で30分ほどかかるこの二つの寺は何と同じ境内に隣合わせとなっており、罰当たりな言い方ながら、巡拝するにはきわめて効率的だ。当初予定では翌日に参拝するつもりであったので、宿のご主人の言われる通りにして何か得をした気分になった。近くには銭形平次の投げ銭である“寛永通宝”を模した砂の造形があるとのことだったが、日が暮れかけ道を聞く人も見当たらず、面倒になって見物しなかった。観音寺は伝統ある門前町で落ち着いた街並みだが、隣の伊予三島の製紙会社のような有力雇用先が乏しいようで、メインストリートとおぼしき商店街ではシャッターを閉ざしたところが目立つ。
I旅館は相当に歴史のありそうな、部屋数もかなりある遍路宿だが、今治のS旅館よりさらに年輩の夫婦が細々と営んでおり、息子さんが跡取りにはならぬとのことで、寂しさを漂わせていた。この日の歩行は15,000歩、11km。宿泊代一泊二食付き6,500円。

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