5月13日(火)うす曇り
前日、東京から移動して泊まった梅田のビジネスホテルを8時ごろに出て09:00発の高速バスで徳島に向かおうとJR梅田駅前のターミナルまで歩いて行った。3時間以上バスに乗り放しとなるので、まずは用を足そうと入ったターミナルそばの公衆トイレはとんでもなく汚い。小便器に「大便するな」との一瞬目を疑うような注意書きまであり、何たることかと呆れ果てる。尾籠な話ながら、私の朝の便通は一度で済まない。出勤前にスッキリ終わればよいが、問題を抱えたまま家を出ると途中で便意を催しトイレ探しに一苦労する。今回のような旅先でも毎朝この問題が付きまとうわけで頭が痛い。幸いにも、たった今乗ったバスには手洗いが付いているとのことで、実際にお世話になるかどうかは別として、心理的には相当の安心感がある。今朝は用心のため朝飯を抜いてきた。
バスは明石・鳴門大橋経由で11時をすぎたころに“四国三郎”の別名がある吉野川を渡り定刻の11:30に徳島駅前に着いた(バス代3,600円)。淡路島を走っているころは眠りこけていてロクに景色を見ていない。予報にたがわず雨がポツポツ降ってきたので、駅前のデパートで折り畳み傘を購入し8,200円也を払ったが、旅先での買い物はいつも高くつく(案の定、帰宅後ヨメハンから鋭い指摘を受けた)。駅に戻りビル5階の食堂できつねうどん(520円)を注文、朝飯を抜いていたのでガツガツすすりこんだ。
腹ごしらえを済ませ12時過ぎに徳島駅を発車する高徳線の高松行きに乗車し、無人の板東駅で降りた(電車賃260円)。方角としては吉野川を西にさかのぼる形となる。一両仕立てのディーゼル・ワンマンカーだが、身障者マークの付いた立派なトイレを備えているのが目を引く。
板東駅から一番札所霊山寺(リョウセンジ)までは徒歩で15分ほどの距離だった。さっそく寺の売店で、納経帳、納経掛軸、納め札、経本といった定番の遍路グッズを総額27,000円ほどで買い揃える。納経帳と掛け軸には参拝した寺々で御朱印をもらうことになるが、朱印代として300円プラス500円、賽銭も含めると大方1,000円、八十八カ所では10万円近くかかることになるので、かねがねどちらか一方だけにしようと思っていた。しかし、両方揃えるのが正式なやり方だと売店の、仏に仕えるナリをしたオニイサンに強く勧められ、折角だからというのでその通りにした。掛け軸には満願後にここ一番寺へのお礼参りと高野山金剛峯寺奥の院の御朱印を受けてから表装するそうで、それにも安くて3万円ほどの費用がかかるという。ある程度覚悟していたとはいえ、遍路は相当に金がかかることを改めて思い知らされたが、掛け軸は足腰がすっかり弱り施設暮らしを強いられている父親の良い慰めにはなりそうだと納得した。金剛杖、菅笠、白衣、輪袈裟などはこの先必要に応じて買い整えることにし、この売店では買わなかった。
オニイサンに教えられた参拝の作法は、まず寺の門前で一礼し手水で身を清めてから本堂、次に大師堂の順にそれぞれ燈明をともし線香3本をあげ賽銭を入れ、住所氏名を記した納め札を専用の箱に投函してから、“仏前勤行法則”と題する経本にしたがいお経をあげる(この納め札は、旅の途中で接待を受けた、つまり何らかの世話になった際にも、相手方に渡す風習という)。最後に、寺の山門を出たところでの一礼も忘れてはならない。
さっそく一番寺で作法通りの参拝を行ってから二番の極楽寺(ゴクラクジ)までおよそ2kmの道を歩いてお参りを済ませ、今晩の宿となるこの寺にリュックを預け、三番の金泉寺(コンセンジ)まで往復6kmほど足を延ばした。本来なら三番寺付近の宿に泊まるのが効率的なのだが、何しろ土地勘がないので致し方ない。歩行距離も実際に歩いてみないとどの程度先まで到達できるか分からないから、その晩の宿をどこにするか慣れるまでしばらくは苦労するだろう。
この日の遍路行は雨降りで行き交う自動車からのハネ上げが気になり景色をロクに見る暇がなく、金泉寺の近くで田植えをしていた風景と私と同世代の夫婦が金剛杖をつきポンチョ姿で黙々と歩いていたのが目にとまった程度。極楽寺に戻り、付属の売店で巡拝用品を入れるための頭陀袋2,000円也を買った。お遍路は細々とした荷物が多いので、ズボラな私にはその管理が大変そうだ。本日の歩行実績は約16,000歩、10km(数カ月前に買い求めたディジタル腕時計には歩行メーターが付いており、誤差は±1割ほどあるようだが、一応の目安になるので重宝だ)。
極楽寺の宿坊は一泊二食付き六畳ほどの個室で6,000円、風呂、洗面所、トイレは共用だ。考えてみれば、寺の宿坊に泊まるのは私にとり初体験である。これまで秩父、坂東、西国の、いわゆる百観音の巡拝を20年ほど費やして終えているが、宿坊の世話になることは一度もなかった。夕食時には、般若湯(ハンニャトウと読む、要するに酒のこと)もお銚子一本400円也で注文できる。経本には、不殺生、不偸盗、不邪淫、不妄語、不綺語、不悪口、不両舌、不慳貪、不瞋恚、不邪見の“十善戒”と称するイマシメが書かれているが、“不飲酒”とは書かれていない。要するに度をすごさなければ良いのである。
















